KAIRO
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10Chapter 10

特別な考慮を要する事項

Part 3: 追加手続の実施と証拠の入手Blueprint Area III 対応・配点 30-40%読了目安 約112分

章構成を新カリキュラムに刷新しました。旧構成との対応は移行ガイドをご覧ください。

ストーリー(冒頭プレビュー)

🦉 Episode 10: 来年もこの会社、あるんですか

登場: 🦉 カイロウ(新人)/💼 先輩(監査部門)/🏢 桐山専務(クライアントの経理担当役員)

二期連続の赤字と銀行からの手紙

カイロウは今日、部品メーカーのクライアントで決算数値を確認していた。会議室のテーブルには、二期分の財務諸表と銀行からの書類が並べて置かれている。窓の外に工場の機械音が響く中、財務諸表を見ると、去年に続き今期も営業損失が出ていた。

🏢「これですか。借入金の条件を一部満たせなかった、という通知です」

桐山専務が書類を軽く指で押さえながら言った。

🦉「条件を満たせなかった、というのは大丈夫なんでしょうか」

🏢「主力の取引先が去年、急に取引を減らしたんです。銀行とはもう話がついています。来期は新しい受注も戻る見込みですし、心配はいりません」

カイロウは財務諸表と手紙を見比べた。数字だけを見ると、楽観できる状況には思えなかった。

🦉「先輩、この会社、来年もちゃんと続いているんでしょうか」

💼「その質問は、監査の場ではちょっと違う形に言い換える必要がある」

先輩はそう言うと、桐山専務に一言断って、カイロウを会議室の外の廊下に連れ出した。人けのない廊下で、先輩は少し声を落として続けた。

見方が変わる一言

カイロウは首をかしげた。フクロウの目でも、一年先の景気までは見通せない。続くかどうかを聞くのが、そんなにおかしなことだろうか。

💼「僕らは占い師じゃない。来年どうなるかを言い当てる仕事じゃないんだ」

🦉「じゃあ、何を確かめるんですか」

💼「財務諸表は、この会社がこれからも事業を続けるという前提で作られている。その前提が今も成り立つと言えるかどうかを、証拠に基づいて確かめる。それが仕事だ」

カイロウは桐山専務の言葉を思い返した。「心配はいりません」というのは、専務の見立てにすぎない。

🦉「専務が大丈夫と言っても、それだけでは根拠にならないということですか」

💼「その通り。経営者の見立てはもちろん聞く。でも、赤字が続いていることや銀行の通知のような事実と、その見立てが噛み合っているかを見るのは、僕らの役目だ」

🦉「その見立てを裏づける事実というのは、たとえばどんなものですか」

💼「資金繰りの見通しが立つか、ほかに借りられるあてがあるか。そういったことを一つずつ確かめていく」

先輩は財務諸表の営業損失の行を指でなぞった。

💼「疑いようがある状況なら、それを財務諸表の読み手に伝える必要があるかどうかまで考える」

🦉「伝える、というのは、報告書に書くということですか」

💼「書き方はいろいろある。ただ、それも今日の範囲を超える」

次に知りたいこと

インプット(冒頭プレビュー)

この章の試験での位置づけ

項目内容
所属エリアArea III --- 追加手続の実施と証拠の入手(Performing Further Procedures and Obtaining Evidence)
Blueprint参照Area III-E --- 特別な考慮を要する事項(Specific Matters that Require Special Consideration)
エリア出題比率30〜40%(Area III全体の配点)

この章はArea III全体の中でも、「特定の項目だからこそ生じる固有のリスク」に焦点を当てた領域である。会計上の見積り、関連当事者、継続企業の前提など、一見バラバラに見える12の論点は、いずれも「通常の実証手続だけでは不十分」という共通点でつながっている。


前提知識 --- この章に入る前に、分かっているとラクなこと

前提知識なぜ必要か
監査証拠の「十分性」「適切性」という基本枠組み(AU-C 500)本章の各論点は、いずれも「この特定の項目について、どのような証拠を、どれだけ集めるべきか」という応用問題であり、その土台となる考え方
リスク評価の基本的な考え方(重要な虚偽表示リスク、特別な検討を要するリスク)見積りや関連当事者取引が特別に扱われるのは、それらが本質的にリスクの高い領域だからという発想でつながっている
監査意見の種類(無限定・限定付・意見不表明など)の大まかなイメージ継続企業の前提や監査範囲の制約の帰結は意見区分に直結するが、意見区分そのものの詳細は後の章で扱う
内部統制の理解が監査手続の設計に影響するという基本的な発想受託会社や内部監査人の作業をどこまで利用できるかは、企業がどのように統制を構築しているかと関わる

1. なぜこの論点が必要か(Why)

【監査の全体フロー】

契約 → 計画 → リスク評価 → 内部統制の理解 → 実証性テスト(一般項目) → 特別な考慮を要する項目 → 虚偽表示の評価・完了手続 → 報告
                                                                    ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
                                                                    ← 今ここ →

前の段階では、売掛金や棚卸資産といった「標準的な」勘定科目に対する実証手続を学んできた。確認状を送り、証憑を突合し、残高を検証する。しかし、監査の対象となる企業のすべてが、そんなに単純にできているわけではない。

想像してほしい。ある企業の財務諸表に、次のような項目が含まれていたらどうだろうか。

  • 5年後に発生するかもしれない環境修復費用の見積り
  • 経営者の親族が経営する会社との大口取引
  • 係争中の特許訴訟による損害賠償請求
  • 給与計算を外部の受託会社に委託している業務プロセス

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