信託・遺産の所得課税・遺産計画戦略と退職金プラン
章構成を新カリキュラムに刷新しました。旧構成との対応は移行ガイドをご覧ください。
ストーリー(冒頭プレビュー)
🦉 Episode 5: 控除は得ではなく、先送りだった
登場: 🦉 カイロウ(新人)/💼 先輩(税務部門)/🏢 望月さん(個人のクライアント)
望月さんの選択
望月さんは先月、10年勤めた会社を辞めて、新しい職場に移ったばかりだった。前の会社は昔ながらの製造業で、退職金は勤続年数に応じた一時金だけだったという。入社手続きの書類に紛れて、退職金制度への加入案内が入っている。経理部からは、今月中に加入方法を決めて提出するよう言われているらしい。画面には、二つの積立方法が並んでいた。
🏢「トラディショナルとロス、どちらか選ぶ画面が出てきたんですが、正直よくわからなくて。とりあえず、手取りが減らない方でいいですか」
🦉「画面には、他にどんな項目が並んでいるんですか」
🏢「積立の種類だけじゃなくて、給与の何パーセントを回すかという欄もあって、そこも決めないと先に進めないんです」
🦉「前の会社にも、同じような制度があったんですか」
🏢「いえ、前の会社には制度自体がなかったので、選ぶこと自体が初めてで戸惑っています。住宅ローンもあるので、今の手取りはできれば減らしたくなくて」
🦉「提出の締め切りは、いつまでなんですか」
🏢「今週末までです。それまでに決めないといけないので、正直焦っています」
カイロウは望月さんの資料を見ながら、自分でもうまく説明できる自信がなかった。控除がある方が得、というくらいの理解しかない。
🦉「今、手元にお金が残る方を選びたい、ということですね」
🏢「はい。控除があるなら、そっちの方が単純に得な気がして」
先輩がその会話に加わった。
💼「得、というより先送りだよ」
「得」ではなく「先送り」
事務所に戻って、カイロウは先輩に聞いた。
🦉「先送り、というのはどういうことですか」
💼「控除を受けられる方は、今の税金が減る代わりに、将来引き出すときにまとめて課税される。もう一方は、今は控除がない代わりに、将来の引き出しが非課税になる。どちらも税金が消えるわけじゃなくて、いつ払うかが違うだけなんだ」
カイロウは、控除を「お得」だと単純に捉えていたことに気づいた。実際は、税金を今払うか将来払うかという選択に過ぎない。
🦉「若いうちはロスの方が有利、みたいな話を聞いたことがあります」
💼「そう言われることはあるけど、それも一つの考え方に過ぎない。人によって答えは変わる」
🦉「じゃあ、望月さんにとってどちらがいいかは、今と将来、どちらの税率が高いかで変わるということですね」
💼「そのとおり。手取りだけを見て決める話じゃないんだ。将来の税率は本人にもわからないから、そこも含めて考える必要がある」
次に知りたいこと
インプット(冒頭プレビュー)
この章の試験での位置づけ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所属エリア | Area I:個人の税務コンプライアンス・プランニングおよびパーソナルファイナンシャルプランニング |
| Blueprint参照 | Area I-D(遺産税のコンプライアンスとプランニング)/Area I-E(個人のパーソナルファイナンシャルプランニング) |
| エリア出題比率 | 40〜50%(Area I全体としての比率。I-D・I-Eそれぞれの内訳配点はBlueprint上非公開) |
⏱ 読了目安: 約127分(インプット教材のみ・個人差があります)。一度に読み切る必要はありません。キリのよいセクションで区切って進めてください。
Area Iは4つの出題エリアの中で最も配点が重い。その中でも本章が扱う「信託・遺産の所得課税」と「退職金プラン」は、数値の分配計算や課税タイミングの判定を問う総合問題(TBS: Task-Based Simulation)と特に相性がよく、得点源にしやすい範囲である。
前提知識 --- この章に入る前に、分かっているとラクなこと
| 前提知識 | なぜ必要か |
|---|---|
| 個人の総所得・課税所得の基本計算構造 | 信託の課税所得も、個人と同じ計算の枠組みを流用して算出するため |
| 遺産税における総遺産(Gross Estate)への算入規定(§2036・§2038等) | 本章3節で、信託を使って財産を遺産に算入させない設計を扱う際の土台になる(詳細はすでに学んだ遺産税の計算実務の章を参照) |
| 「委託者(Grantor)」「受託者(Trustee)」「受益者(Beneficiary)」という信託の三者関係 | 誰が所得税を負担する主体になるかを判断する出発点として必要 |
| 所得税の累進税率構造の基本 | 信託自体にも累進課税が及ぶが、税率区分の刻みが個人よりはるかに狭く圧縮されている点を理解する前提になる |
1. なぜこの論点が必要か(Why)
【TCP Area I:個人税務・パーソナルファイナンシャルプランニングの全体像】
個人所得税の基本(I-A)
↓
受動的活動・アットリスク損失(I-B)
↓
贈与税(I-C)
↓
遺産税の計算実務(I-D前半・既習)
↓
信託・遺産の所得課税と遺産計画戦略/退職金プラン(I-D後半・I-E) ← 今ここ
ある個人が亡くなり、遺言で「自宅は妻に、金融資産は信託を作って子どもたちに」と定めていたとする。ここで見落とされやすいのが、遺産税(誰が財産を相続するかにかかる税金)の話が終わっても、その先に別の税金の問題が残っているという事実である。信託や遺産という「器」自体が、毎年収益を生む。賃貸不動産からの家賃収入、預金や債券の利息---これらには所得税がかかる。問題は、その所得税を誰が払うのか、という点だ。
信託そのものが払うのか、それとも分配を受けた受益者が払うのか。この配分ルールを決めるのが、本章前半で扱う分配可能純所得(DNI: Distributable Net Income)という仕組みである。DNIを正しく理解していないと、遺産計画で「節税のために信託を作ったつもりが、実は税負担が重くなる設計をしてしまった」という事態が起こりうる。
続きとアウトプット演習・整理ノートはTCP教材(購入者限定)でご覧いただけます。