研究開発費と企業結合(IPR&Dを含む取得法)
章構成をAICPA公式の出題範囲(Blueprint)に沿った新カリキュラムに刷新しました。
ストーリー(冒頭プレビュー)
🦉 Episode 10: 資産にならない開発費
登場: 🦉 カイロウ(新人)/💼 先輩(経営分析チーム)/🏢 森田社長(クライアントの経営者)
経営会議で
カイロウは先輩と一緒に、ものづくりの会社の経営会議に出ていた。会議室の壁には、これまでの試作機の写真が何枚も貼られている。テーブルには、今期の決算資料と来期の事業計画が並んでいた。森田社長は、新しい省エネモーターの開発について話していた。
🏢「この2年で、開発にはおよそ4億円を使いました。試作機も、もうすぐ完成します」
森田社長の手元には、試作機の写真のほかに、費用の内訳をまとめた表もあった。人件費、部品代、外部の研究機関への委託費が、細かく並んでいる。
🦉「この4億円は、主に何に使われたんですか」
🏢「半分近くは技術者の人件費です。残りは部品の試作と、外部への委託費用ですね」
🦉「2年間、ずっとこの1つのモーターのために動いていたんですか」
🏢「ええ。専任のチームを組んで、他の仕事はほとんど任せていました」
カイロウは決算資料をめくったが、それらしい資産の項目が見当たらなかった。
🦉「4億円も使ったのに、貸借対照表のどこにも出てこないんですか」
🏢「そうなんです。全部、その年の費用として処理しています」
森田社長は少し残念そうだった。積み上げてきたものが、数字の上では何も残っていないように見えるからだ。テーブルの端には、来月銀行に提出する予定の決算書の下書きも置かれていた。
🏢「銀行にこの数字だけ見せると、お金を捨てているように見えないか心配なんですよ」
先輩がうなずきながら、資料の別のページを指した。
💼「その点は、あとで数字の見方も一緒に整理しましょう」
森田社長は少しほっとした顔になり、次の議題に話を進めた。
先輩の一言
会議室を出たあと、カイロウは先輩に聞いた。
🦉「4億円も使って何も残らないなんて、おかしくないですか」
💼「お金が消えたわけじゃない。将来ちゃんと利益を生むと言い切れるかどうかが問題なんだ」
🦉「まだ売れるかわからないから、ということですか」
💼「そう。研究や開発の途中では、成功するかどうかまだ誰にもわからない。だから使った分は、その都度費用にしてしまう決まりになっている」
🦉「完成してから資産にする、というわけにもいかないんですか」
💼「完成しても同じだ。研究開発の費用は、発生した時点で費用にすると決まっている。あとから戻すこともしない」
🦉「じゃあ、あの試作機の写真は、帳簿の上ではもう存在しないのと同じなんですね」
💼「数字の上ではそう見える。でも会社の実力がなくなったわけじゃない」
🦉「なんだか不思議な感じがします」
インプット(冒頭プレビュー)
この章の試験での位置づけ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所属エリア | Area II ---テクニカル会計と報告(Technical Accounting and Reporting) |
| Blueprint参照 | Area II-E(研究開発費)、Area II-F(企業結合)。参照コード: II-E-1、II-E-3、II-F-1、II-F-2、II-F-3 |
| エリア出題比率 | 35%〜45%(Area II全体) |
⏱ 読了目安: 約134分(インプット教材のみ・個人差があります)。一度に読み切る必要はありません。キリのよいセクションで区切って進めてください。
Area IIはBARの出題範囲のうち最も広い比重を占めるエリアであり、本章が扱う企業結合(Business Combinations)はBARのBlueprintにしか存在しない、他科目には登場しない論点である。取得法(Acquisition Method)の一連の計算は、TBS(Task-Based Simulation、実務形式の応用問題)で数値を変えて繰り返し出題されやすい。
前提知識 --- この章に入る前に、分かっているとラクなこと
| 前提知識 | なぜ必要か |
|---|---|
| 発生主義会計における費用と資産の区分基準 | 研究開発費が原則として費用処理される理由の土台になる |
| 公正価値(Fair Value)測定の基本的な考え方 | 企業結合では識別可能資産・負債のほぼすべてを取得日の公正価値で再測定するため |
| のれん(Goodwill)が非償却の無形資産であり、減損テストの対象になるという性質 | 本章で算定するのれんが、その後どう扱われるかを理解する前提になる。減損テストの手続そのものは別の章で扱う |
| 連結の基本イメージ(親会社が子会社を支配する構造) | 非支配持分(Non-controlling Interest)の当初測定を理解するには、親会社帰属分と非支配株主帰属分を分ける発想が要る。連結手続の詳細は後の章で扱う |
1. なぜこの論点が必要か(Why)
同じ「研究開発」という活動が、会計処理としてはまったく逆の扱いを受ける瞬間がある。自社の研究室で新しい技術を積み上げているなら、その支出は原則として発生した期に全額費用処理される。ところが、その研究開発プロジェクトを丸ごと含む会社を買収した瞬間、同じ技術は仕掛研究開発(In-process Research and Development、以下IPR&D)として貸借対照表に資産計上される。
この非対称性は制度の気まぐれではない。自社開発のR&D投資には市場での値付けが存在せず、完成する保証もないため、資産計上を認めると経営者の楽観的な見積りが財務諸表を歪める余地が大きい。一方、企業結合で対価を支払って手に入れたIPR&Dには、独立した第三者間の交渉で確定した価格という、外部から検証可能な事実がある。取得法(Acquisition Method)が識別可能資産のほぼすべてを取得日の公正価値で認識するのは、この「価格が市場で確定した」という事実そのものを会計処理の根拠にしているからである。
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§ Summary Notes — BAR
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