KAIRO
KAIRO
マルチプル法類似会社比較法バリュエーション財務モデリングキャリア資格

類似会社比較法(マルチプル法)とは|EV/EBITDA倍率での算出手順を解説

公開 2026.09.12更新 2026.09.12読了 約8
カイロウカイロウUSCPA全4科目一発合格(9ヶ月・働きながら)× KAIRO開発者

類似会社比較法(コンパラブル・カンパニー・アナリシス、通称「マルチプル法」)は、対象企業に事業内容や規模が近い上場企業を選び、その市場での評価水準(倍率)を対象企業に当てはめて価値を見積もる手法です。DCF法のように将来のキャッシュフローを細かく予測する必要がなく、市場の実勢を素早く反映できる点が特徴です。この記事では、EV/EBITDA倍率を軸に、類似企業の選び方から倍率の算出、対象企業への当てはめ、コントロールプレミアムなどの調整までを、架空の数値例で通しで確認します。


類似会社比較法とは何か

類似会社比較法は、企業価値評価の3つのアプローチ(インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチ)のうち、マーケットアプローチに分類される代表的な手法です。「同じような会社であれば、似たような倍率で評価されるはずだ」という考え方に基づき、上場している類似企業の株価や企業価値を、売上・利益・EBITDAなどの指標で割った「倍率(マルチプル)」を算出し、それを対象企業の同じ指標に掛け合わせて価値を求めます。3つのアプローチ全体の位置づけは、バリュエーションの全体像を整理した記事で解説しています。

計算の全体の流れ

類似会社比較法は、大きく次のステップで進みます。

  1. 対象企業と事業内容・規模が近い類似上場企業を選定する
  2. 類似企業の財務データから倍率(EV/EBITDA、PERなど)を算出する
  3. 複数の類似企業の倍率から、平均値・中央値を求める
  4. 対象企業の対応する指標(EBITDA、当期純利益など)に倍率を当てはめ、価値を算出する
  5. 必要に応じて、コントロールプレミアムや非流動性ディスカウントを調整する

ステップ1: 類似企業を選定する

類似企業の選定は、この手法の精度を左右する最も重要な工程です。主な選定基準は次のとおりです。

  • 事業内容: 同じ業界・同じビジネスモデルであること(製造業とサービス業では収益構造が異なり、倍率の水準も変わります)
  • 規模: 売上高や時価総額が近いこと(規模が大きく異なると、成長ステージや資金調達力の差が倍率に反映されてしまいます)
  • 成長率: 売上・利益の成長スピードが近いこと(高成長企業は高い倍率で評価される傾向があるため、成長率が離れた企業を混ぜるとゆがみが生じます)
  • 地域: 同じ市場・同じ国の企業であること(国によって金利水準や投資家の期待収益率が異なるため、倍率の前提が変わります)

実務では、5〜10社程度の類似企業を選び、その中で異常値となる企業を除外しながら、平均値・中央値を採用するのが一般的な進め方です。

ステップ2: 倍率(マルチプル)を算出する

ここからは、架空の企業を使った数値例で確認します。単位は「億円」とし、あくまで計算の流れを理解するための簡略化した例です。対象企業(非上場)のEBITDAを20億円と仮定し、類似上場企業4社の企業価値(EV)とEBITDAから、EV/EBITDA倍率を算出します。

類似企業 企業価値(EV) EBITDA EV/EBITDA倍率
類似企業A 180 18 10.0倍
類似企業B 210 20 10.5倍
類似企業C 260 20 13.0倍
類似企業D 152 16 9.5倍

4社の倍率の平均値は10.75倍、中央値は10.25倍です。類似企業Cは他社より高い倍率が出ていますが、成長率が突出して高い企業であるため、単純平均に含めるかどうかは実務上の判断が分かれるところです。ここでは説明のため、中央値の10.25倍を採用します。

ステップ3: 対象企業に倍率を当てはめる

算出した倍率を、対象企業のEBITDAに掛け合わせます。

対象企業の企業価値(EV) = EBITDA20 × 倍率10.25 = 205.0

この企業価値(EV)は、株主と債権者の両方に帰属する価値です。ここから対象企業の純有利子負債(仮に30と仮定)を差し引くと、株主価値が算出できます。

株主価値 = 205.0 - 30 = 175.0

EV/EBITDA倍率とPERの違い

マルチプル法でよく使われる指標には、EV/EBITDA倍率のほかにPER(株価収益率、Price Earnings Ratio)があります。両者の違いを整理します。

指標 分子 分母 特徴
EV/EBITDA倍率 企業価値(EV) EBITDA(利払い・税金・償却前利益) 資本構成(有利子負債の多寡)や減価償却方針の違いに左右されにくい
PER 株式時価総額 当期純利益 支払利息や税金の影響を受けるため、資本構成が異なる企業間の比較には不向き

EV/EBITDA倍率は、有利子負債の水準や税率、減価償却方針が企業ごとに異なっていても比較しやすいという利点があるため、業種横断・国境をまたいだ比較では特に使われる頻度が高い指標です。一方でPERは、株式市場に直接なじみのある指標であるため、上場企業同士の相場観を素早くつかみたい場面で使われます。

マルチプルの調整: コントロールプレミアムと非流動性ディスカウント

類似上場企業の株価から算出した倍率は、そのまま対象企業に当てはめてよいとは限りません。代表的な調整項目は次の2つです。

コントロールプレミアム 類似企業の株価は、市場で少数株式が売買される際の価格(少数株主持分としての価値)を反映しています。一方、M&Aで会社を丸ごと買収する場合には、経営の支配権を獲得できることへの上乗せ(コントロールプレミアム)が価格に加算されるのが一般的です。買収目的の評価では、算出した価値にプレミアムを加算する調整を行います。

非流動性ディスカウント 類似企業は上場企業であり、株式をいつでも市場で売買できます。一方、対象企業が非上場企業である場合、株式の売却先を自分で見つける必要があり、換金のしやすさ(流動性)が上場株式に比べて劣ります。この流動性の低さを反映し、算出した価値から一定割合を差し引くのが非流動性ディスカウントです。

どちらも「一律に何%」という絶対的な基準があるわけではなく、対象企業の状況や評価目的に応じて水準を検討する必要がある論点です。

DCF法との使い分け

マーケットアプローチであるマルチプル法と、インカムアプローチであるDCF法は、どちらか一方だけを使うのではなく、実務では組み合わせて使われるのが基本です。それぞれの特徴を整理します。

  • マルチプル法の強み: 計算がシンプルで、市場の実勢を素早く反映できる。適切な類似企業さえ見つかれば、短時間で評価のレンジ感がつかめる
  • マルチプル法の弱み: 適切な類似企業が存在しない場合や、市場全体が過熱・冷え込んでいる局面では、倍率そのものが歪んでいる可能性がある
  • DCF法の強み: 対象企業固有の将来性や収益構造を、キャッシュフロー予測に直接反映できる
  • DCF法の弱み: 将来予測の前提(成長率・割引率)次第で結果が大きく変動する。DCF法の詳しい計算プロセスは、DCF法をわかりやすく解説した記事で数値例つきで解説しています

実務では、DCF法で算出した価値のレンジと、マルチプル法で算出した価値のレンジを並べて比較し、両者が近い水準に収まっているかを確認する使い方がよくされます。大きく乖離している場合は、DCF法の前提(成長率や割引率)か、マルチプル法の類似企業選定のどちらかに見直すべき点がある、というサインになります。

よくある質問(FAQ)

Q. 類似企業は何社くらい選ぶべきですか?

明確な決まりはありませんが、実務では5〜10社程度を目安に選定し、その中で規模や成長率が大きく外れる企業を除外しながら平均値・中央値を採用するのが一般的です。類似企業が少なすぎると、1社の特殊事情に結果が引っ張られやすくなります。

Q. 倍率は平均値と中央値のどちらを使うべきですか?

どちらも使われますが、突出して高い・低い倍率の企業が含まれる場合は、その影響を受けにくい中央値を採用することが多いです。平均値・中央値の両方を算出し、差が大きい場合はその原因(異常値の有無)を確認する習慣が重要です。

Q. 非上場企業の評価にマルチプル法は使えますか?

使えます。ただし、参照するのは上場企業の倍率であるため、非流動性ディスカウントを差し引くなど、非上場であることによる評価差を調整する必要があります。類似の非上場企業のM&A取引事例を参照する「類似取引比較法」を併用するケースもあります。

Q. EV/EBITDA倍率とPER、どちらを優先すべきですか?

対象企業や類似企業の間で資本構成(有利子負債の水準)や税率が異なる場合は、その影響を受けにくいEV/EBITDA倍率が優先されることが多いです。同業種内で資本構成が近い企業同士を比較する場合は、PERも参考指標として有効です。


まとめ

類似会社比較法(マルチプル法)は、事業内容・規模・成長率・地域が近い類似上場企業の倍率(EV/EBITDA倍率やPERなど)を算出し、それを対象企業に当てはめて価値を見積もるマーケットアプローチの代表的な手法です。今回の例では、EV/EBITDA倍率10.25倍を対象企業のEBITDA20に当てはめ、企業価値205.0・株主価値175.0という結果になりましたが、類似企業の選び方や採用する倍率(平均値か中央値か)によって結果は変動します。コントロールプレミアムや非流動性ディスカウントといった調整の考え方とあわせて、DCF法と組み合わせてレンジで捉える姿勢が実務での基本です。

KAIROでは、USCPA全科目合格者が運営する立場から「財務モデリング&バリュエーション 30日コース」を提供しています。Day1〜3は登録不要で無料公開中です。まずは下記から中身を確認してみてください。

財務モデリング&バリュエーション 30日コースを見る →

Get Started

Course

財務モデリング&バリュエーション 30日コース

30日・合計約48時間。毎日「読む→作る→確認」で、Excelの3表モデルからDCF・マルチプルまで自分の手で作れるようになります。本番形式の総合演習3本付き。

¥5,980(税込・買い切り)定価 ¥9,980

まず3日分を無料で試す

※Microsoft Excel(Windows/macOS)が必須です。デジタルコンテンツのため、購入後の返品・キャンセルはできません。

カイロウ
カイロウFAS業界 × USCPA × AI開発者

働きながら9ヶ月でUSCPA全4科目に合格。その過程で欲しかった教材と仕組みを、そのままプロダクトにしています。

Xでフォロー

財務モデリング&バリュエーション 30日コース

¥5,980(税込・買い切り)

コースを見る

Course

財務モデリング&バリュエーション 30日コース

簿記ゼロから、Excelで3表モデルと企業価値評価ができるまで。30日間、毎日手を動かして仕上げます。本番形式の総合演習3本付き。

¥5,980(税込・買い切り)定価 ¥9,980

まず3日分を無料で試す

Microsoft Excel(Windows/macOS)が必須です。購入後の返品・キャンセルはできません。