KAIRO
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無料公開中
読了目安 60〜90分

会計超入門

簿記の知識がまったくない方向けに、USCPA学習の前提となる複式簿記・財務諸表の基本をゼロから解説します。

この講座について

対象読者は、簿記の知識がまったくない社会人で、USCPA(米国公認会計士)を検討している人、または学習を始めたばかりの人である。「借方」「貸方」という言葉を聞いたことがない、あるいは聞いたことはあってもどちらが左でどちらが右か思い出せない、というレベルを出発点に想定している。

読了の目安は60〜90分である。一度で全部を覚える必要はない。各セクションの終わりに確認クイズを置いているので、答えられるかどうかで理解度を確かめながら進めるとよい。

この講座を読み終えると、USCPA各科目のテキストが前提としている「複式簿記の基本(借方・貸方、仕訳の仕組み)」を一通り押さえた状態になる。読み終えたら、FAR(財務会計)の学習に進むことができる。この講座はそのための橋渡しであり、USCPA試験そのものの出題範囲ではない。


1. 財務諸表とは何か

会社が何をしているかを知りたいとき、社長に話を聞くこともできるが、それでは会社ごとに説明の仕方がバラバラになってしまい、比較ができない。そこで、会社の活動を共通のフォーマットで数字にまとめたものが財務諸表である。

財務諸表には主に3種類ある。それぞれが答える質問が異なる。

財務諸表答える質問例えるなら
貸借対照表(B/S)今この瞬間、何を持ち誰にいくら返す義務があるかある時点の財産の写真
損益計算書(I/S)この1年間でいくら稼いでいくら使ったか1年間の成績表
キャッシュフロー計算書(CF計算書)この1年間で現金がどう増減したか銀行口座の入出金記録

B/Sが「ある瞬間の静止画」であるのに対し、I/SとCF計算書は「一定期間の動画」にあたる。この違いを最初に意識しておくと、後で個々の勘定科目を学ぶときに迷いにくくなる。

1-1. 3つの表はバラバラではなくつながっている

3つの財務諸表は、同じ会社の活動を3つの異なる角度から見ているにすぎない。中でも重要なつながりが2つある。

1つ目は、損益計算書の「当期純利益」が、貸借対照表の「利益剰余金(過去から積み上げてきた利益の蓄積)」に積み上がっていく関係である。今年稼いだ利益は、来年への繰越として貸借対照表に残る(「利益剰余金」は株式会社の科目名であり、3章以降で扱う個人事業の設例では積み上げ先の科目名が異なる。詳しくは4-4で扱う)。

2つ目は、「利益」と「現金」は別物だという点である。売上を計上しても相手からまだお金を受け取っていなければ、その分だけ利益と手元の現金にズレが生じる。銀行から借りたお金で現金が増えても、それは利益ではない(返済義務が増えただけである)。「利益が出ている会社が黒字とは限らない」という現象は、このズレから生まれる。この点は5章で改めて扱う。


✅ 確認クイズ

Q1: 貸借対照表(B/S)と損益計算書(I/S)は、それぞれ「ある瞬間の写真」と「一定期間の動画」のどちらにあたるか?

解答

B/Sは「ある瞬間の写真」、I/Sは「一定期間の動画」にあたる。 B/Sはある時点の財産と義務を示し、I/Sは一定期間の稼ぎと使った金額を示す。

Q2: 「今年は利益が出ているのに、なぜか手元の現金が増えていない」という状況が起こりうるのはなぜか?

解答

利益の計上タイミングと現金の受け取りタイミングが一致するとは限らないため。 掛け(後払い)で商品を売った場合、売上はその場で計上されるが、現金はまだ入ってきていない。


2. 複式簿記のたった一つのルール

複式簿記と聞くと難しそうに聞こえるが、覚えるべきルールは実質1つしかない。

すべての取引は、必ず左と右の両方に記録する。

これだけである。この左側のことを「借方(Debit、略してDR)」、右側のことを「貸方(Credit、略してCR)」と呼ぶ。ここで重要な注意点がある。

⚠️ 「借方」「貸方」という日本語の意味を深読みしてはいけない。 なぜか? 「借方」「貸方」の漢字から「借りたお金」「貸したお金」を連想しがちだが、複式簿記の借方・貸方には「左」「右」という位置以外の意味はない。 「借方=左、貸方=右」という約束事として、そのまま覚えるのが一番早い。

2-1. 勘定科目の5分類

勘定科目とは、現金・借入金・売上のように、取引を記録する際に使う項目の名前のことである。会社の取引に登場するあらゆる勘定科目は、次の5つのグループのどれかに分類される。

分類英語意味具体例
資産Asset会社が持っている財産現金、売掛金、備品
負債Liability会社が将来返す義務があるもの借入金、買掛金
純資産(資本)Equity資産から負債を引いた残り(会社の正味の元手)資本金
収益Revenue会社が稼いだ金額売上
費用Expense会社が稼ぐために使った金額給料、家賃

このうち資産・負債・純資産の3つは貸借対照表(B/S)に、収益・費用の2つは損益計算書(I/S)に登場する。そして、次の等式がすべての土台になる。

資産 = 負債 + 純資産

会社が持っている財産(資産)は、必ず「誰かから借りているお金(負債)」か「自分たちの元手(純資産)」のどちらかで賄われている、という当たり前の事実を表した式である。この等式は、どんな取引を記録した後でも、常に成り立っていなければならない。

2-2. ホームポジション --- 「増えたらどちら側に書くか」

5つの分類には、それぞれ「増えたときに記録する側(ホームポジション)」が決まっている。これも丸暗記ではなく、理屈で理解できる。

資産が増えるときは借方(左)、負債と純資産が増えるときは貸方(右)に記録する。そう決めておけば、「資産=負債+純資産」の右側が増えたときは貸方に、左側が増えたときは借方に書くことになり、常に左右の合計が一致する。

収益・費用も考え方は同じである。収益が増えると純資産が増え、費用が増えると純資産が減るので、収益は純資産と同じ貸方、費用は純資産と逆の借方がホームポジションになる。

分類増えたときの記録側(ホームポジション)減ったときの記録側
資産(Asset)借方(左)貸方(右)
負債(Liability)貸方(右)借方(左)
純資産(Equity)貸方(右)借方(左)
収益(Revenue)貸方(右)借方(左)
費用(Expense)借方(左)貸方(右)

図にすると、次のようになる。

              借方(左, Debit)    │    貸方(右, Credit)
        ─────────────────────────┼─────────────────────────
        資産(Asset)が増える     │    負債(Liability)が増える
        費用(Expense)が増える   │    純資産(Equity)が増える
                                  │    収益(Revenue)が増える

「資産と費用は左側、負債・純資産・収益は右側」とグループで覚えると定着しやすい。これは後で学ぶ「T勘定」という図の形そのものでもある。

⚠️ 借方・貸方は「良い・悪い」という意味ではない。 なぜか? 借方は資産・費用にとっては「増加」を意味するが、負債・純資産・収益にとっては「減少」を意味する。あくまで「左に書くか、右に書くか」という位置の指定にすぎない。


✅ 確認クイズ

Q1: 「借方」「貸方」という言葉には、位置(左・右)以外にどんな意味が込められているか?

解答

位置(左・右)以外の意味はない。 「借方=左、貸方=右」という単なる約束事であり、日常語の「借りる」「貸す」の意味を持ち込んで考えると混乱する。

Q2: 資産が増えたときは借方・貸方のどちらに記録するか?また、負債が増えたときはどちらか?

解答

資産が増えたときは借方(左)、負債が増えたときは貸方(右)に記録する。 「資産=負債+純資産」の等式が常に成り立つよう、増減の記録側があらかじめ決められている。

Q3: 費用が増えたときに借方(左)に記録するのはなぜか?

解答

費用が増えると、会社の純資産(元手)が減る効果を持つため。 純資産の減少は借方(左)に記録するというルールに合わせて、費用の増加も借方(左)に記録する。


3. 仕訳を書いてみる

ここからは、実際に手を動かして仕訳を書いてみる。個人でコーヒースタンドを開業した「つばめコーヒースタンド」という架空の小さな会社を例に、開業から最初の数週間に起きた8つの取引を、順番に仕訳していく。

それぞれの取引について、「①何が起きたかを考える → ②仕訳を書く → ③なぜその側に書くのかを確認する」という3ステップで進める。

取引① オーナーが元手として現金50,000ドルを出資した

①考え方: オーナーが自分のお金を事業に入れた。現金(資産)が増え、同時に会社の元手である資本金(純資産)も増える。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方現金(Cash)50,000
貸方資本金(Owner's Capital)50,000

③なぜその側か: 資産の増加は借方、純資産の増加は貸方。それぞれのホームポジションに沿って記録する。

取引② 銀行から30,000ドルを借り入れた

①考え方: 銀行からお金を借りて、現金を受け取った。現金(資産)が増え、同時に将来返す義務である借入金(負債)も増える。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方現金(Cash)30,000
貸方借入金(Loan Payable)30,000

③なぜその側か: 資産の増加は借方、負債の増加は貸方。それぞれのホームポジションに沿って記録する。

取引③ エスプレッソマシンなどの備品を現金20,000ドルで購入した

①考え方: 現金を払って備品を手に入れた。備品(資産)が増え、現金(資産)が減る。資産と資産の間で交換が起きているだけで、負債や純資産は動かない。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方備品(Equipment)20,000
貸方現金(Cash)20,000

③なぜその側か: 備品(資産)の増加は借方。現金(資産)の減少は、その逆の貸方に記録する。

取引④ コーヒー豆などの商品を現金15,000ドルで仕入れた

①考え方: 現金を払って商品を仕入れた。ここでは説明を単純にするため、仕入れた商品はすべて当期中に販売されたものと仮定する。仕入れた金額はそのまま「売上原価(Cost of Goods Sold)」という費用として扱う(実際の会計では在庫として資産計上し、売れた分だけ費用に振り替えるが、それは後の章で扱う)。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方仕入(売上原価, Cost of Goods Sold)15,000
貸方現金(Cash)15,000

③なぜその側か: 費用の増加は借方、資産(現金)の減少は貸方に記録する。

取引⑤ その場でコーヒーを販売し、現金18,000ドルを受け取った

①考え方: 商品を売って、その場で現金を受け取った。現金(資産)が増え、同時に売上(収益)が増える。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方現金(Cash)18,000
貸方売上(Sales)18,000

③なぜその側か: 資産の増加は借方、収益の増加は貸方。それぞれのホームポジションに沿って記録する。

取引⑥ 近くのオフィスに、後払い(掛け)で10,000ドル分のコーヒー豆を販売した

①考え方: 商品を売ったが、代金はまだ受け取っていない。この「あとで代金を受け取る権利」を売掛金(Accounts Receivable)という資産として記録する。売掛金と売上が同時に増える。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方売掛金(Accounts Receivable)10,000
貸方売上(Sales)10,000

③なぜその側か: 資産(売掛金)の増加は借方、収益(売上)の増加は貸方。現金を受け取っていなくても引き渡し時点で売上を計上する点は、5章の「発生主義」の入口にあたる。

取引⑦ 取引⑥の売掛金のうち、6,000ドルを現金で回収した

①考え方: 後払いの約束だった代金の一部を、実際に現金で受け取った。現金が増え、その分だけ売掛金が減る。売上はすでに取引⑥で計上済みなので、ここでは動かさない。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方現金(Cash)6,000
貸方売掛金(Accounts Receivable)6,000

③なぜその側か: 現金(資産)の増加は借方。売掛金(資産)の減少は、その逆の貸方に記録する。

⚠️ 売掛金を回収したとき、もう一度「売上」を計上してはいけない。 なぜか? 売上はすでに取引⑥で計上済みであり、取引⑦は代金の受け取りにすぎず、資産の中身が売掛金から現金に変わっただけである。ここで売上を二重に計上すると、収益を過大に計上してしまう。

取引⑧ 従業員に給料5,000ドルを現金で支払った

①考え方: 従業員が働いてくれたことへの対価として、現金を支払った。給料(費用)が増え、現金(資産)が減る。

②仕訳:

借方/貸方勘定科目金額($)
借方給料(Salary Expense)5,000
貸方現金(Cash)5,000

③なぜその側か: 費用の増加は借方、資産(現金)の減少は貸方に記録する。


✅ 確認クイズ

Q1: 取引④で、商品を現金で仕入れたときに「仕入(費用)」を借方に記録するのはなぜか?

解答

費用の増加は借方に記録するというルールに従っているため。 この講座では単純化のため、仕入れた商品はすべて当期中に販売された前提を置き、仕入金額をそのまま費用(売上原価)として扱っている。

Q2: 取引⑥(掛け売上)で、まだ現金を受け取っていないのに「売上(収益)」を計上できるのはなぜか?

解答

商品を引き渡した時点で売上を計上するのが会計のルールであり、現金の受け取りタイミングとは切り離して考えるため。 5章で学ぶ「発生主義」の入口にあたる。

Q3: 取引⑦で売掛金を現金で回収したとき、なぜ「売上」をもう一度計上してはいけないのか?

解答

売上はすでに取引⑥で計上済みだから。 取引⑦は代金の受け取りにすぎず、資産の中身が売掛金から現金に変わっただけである。


4. 仕訳から財務諸表ができるまで

3章で書いた8つの仕訳は、そのままではバラバラな記録にすぎない。ここから、①勘定科目ごとに集計する「T勘定への転記」、②貸借の一致を確認する「試算表」、③最終的な報告書である「貸借対照表・損益計算書」の作成、という3ステップを踏んで、財務諸表ができあがるまでを見ていく。数値はすべて3章の8取引とつながっている。

4-1. T勘定への転記

T勘定とは、勘定科目ごとに借方(左)と貸方(右)を書き出す簡単な図のことである。アルファベットの「T」の形をしているのでこの名前がついている。3章の8取引を、登場した8つの勘定科目ごとに転記すると、次のようになる。

【現金(Cash)】                       【売掛金(Accounts Receivable)】
借方           │ 貸方                  借方           │ 貸方
①  50,000     │ ③  20,000             ⑥  10,000     │ ⑦   6,000
②  30,000     │ ④  15,000             ─────────────┼─────────────
⑤  18,000     │ ⑧   5,000             残高   4,000
⑦   6,000     │
─────────────┼─────────────
計 104,000     │ 計  40,000
残高  64,000   │

【備品(Equipment)】                  【借入金(Loan Payable)】
借方           │ 貸方                  借方           │ 貸方
③  20,000     │                                       │ ②  30,000
─────────────┼─────────────         ─────────────┼─────────────
残高  20,000   │                                       │ 残高  30,000

【資本金(Owner's Capital)】          【売上(Sales)】
借方           │ 貸方                  借方           │ 貸方
               │ ①  50,000                            │ ⑤  18,000
─────────────┼─────────────                          │ ⑥  10,000
               │ 残高  50,000           ─────────────┼─────────────
                                                       │ 残高  28,000

【仕入(Cost of Goods Sold)】         【給料(Salary Expense)】
借方           │ 貸方                  借方           │ 貸方
④  15,000     │                       ⑧   5,000     │
─────────────┼─────────────         ─────────────┼─────────────
残高  15,000   │                       残高   5,000   │

現金勘定を例にすると、現金が増える取引(①②⑤⑦)はすべて借方に、減る取引(③④⑧)はすべて貸方に集めている。借方合計104,000ドルから貸方合計40,000ドルを差し引いた64,000ドルが、現金の残高になる。

4-2. 試算表 --- 貸借が一致しているかを確認する

各勘定の残高を借方・貸方に分けて一覧にしたものが試算表(Trial Balance)である。複式簿記ではすべての取引を必ず左右両方に同じ金額で記録するので、全勘定の残高を集計すると借方合計と貸方合計は必ず一致する。これが、転記に間違いがないかを確認するチェック機能になる。

勘定科目借方残高($)貸方残高($)
現金64,000
売掛金4,000
備品20,000
借入金30,000
資本金50,000
売上28,000
仕入15,000
給料5,000
合計108,000108,000

借方合計108,000ドルと貸方合計108,000ドルが一致しており、転記に矛盾がないことが確認できる。

⚠️ 試算表の一致は「転記に矛盾がない」ことの確認にはなるが、「取引の中身が正しい」ことまでは保証しない。 なぜか? 取引を丸ごと記録し忘れた場合や、誤った金額を借方・貸方の両方に同じ額だけ記録した場合でも、借方合計と貸方合計は一致してしまうため。

4-3. 損益計算書(I/S)を作る

試算表のうち収益と費用の勘定だけを取り出すと、損益計算書ができあがる。「この期間にいくら稼いで、いくら使ったか」を示す表である。

項目金額($)
売上(Sales)28,000
仕入(売上原価, Cost of Goods Sold)(15,000)
売上総利益(Gross Profit)13,000
給料(Salary Expense)(5,000)
当期純利益(Net Income)8,000

売上28,000ドルから売上原価15,000ドルを差し引いた売上総利益は13,000ドル、そこから給料5,000ドルを差し引いた当期純利益は8,000ドルになる。この講座の例では費用が給料のみのため区別していないが、本業の活動から生じた利益は「営業利益(Operating Income)」と呼ばれ、そこに本業以外の損益(受取利息など)を加減したものが当期純利益になる。この数字が、次のB/Sで再び登場する。

4-4. 貸借対照表(B/S)を作る

試算表のうち資産・負債・純資産の勘定を取り出すと、貸借対照表ができあがる。純資産の欄には、資本金50,000ドルに加え、4-3で算出した当期純利益8,000ドルを合算する。当期に稼いだ利益は、純資産を増やす効果を持つためである。

資産金額($)負債・純資産金額($)
現金64,000借入金30,000
売掛金4,000資本金50,000
備品20,000当期純利益8,000
資産合計88,000負債・純資産合計88,000

資産合計88,000ドルと、負債・純資産合計88,000ドル(借入金30,000ドル+資本金50,000ドル+当期純利益8,000ドル)が一致している。2章の「資産=負債+純資産」という等式が、8つの取引を経てもきちんと成り立っている。

⚠️ 1-1で登場した「利益剰余金」が、このB/Sには出てこない。 なぜか? 1-1で説明した「当期純利益が利益剰余金に積み上がる」という関係は、株式会社を前提にしたものである。つばめコーヒースタンドは個人事業(Owner's Capital方式)のため、株式会社のような「資本金」と「利益剰余金」の区別を持たず、当期純利益は最終的に資本金へまとめて合算される。ここでは仕組みを分かりやすく示すため、合算する前の当期純利益をあえて別の行として残している。株式会社であれば、この8,000ドルは資本金と区別された「利益剰余金(Retained Earnings)」という別科目に積み上がる。

📋 数値のつながり: 3章の8取引 → 4-1のT勘定 → 4-2の試算表(貸借一致を確認)→ 4-3で当期純利益8,000ドルを算出 → 4-4でその8,000ドルが純資産の一部としてB/Sに反映される。この一連の流れが、FAR科目で学ぶ会計処理の土台になる。


✅ 確認クイズ

Q1: 試算表の借方合計と貸方合計が一致するのはなぜか?

解答

複式簿記ではすべての取引を必ず借方・貸方の両方に同じ金額で記録しているため。 全勘定の残高を集計すると、その性質上、借方合計と貸方合計は必ず一致する。

Q2: 試算表の借方・貸方が一致していれば、取引の記録内容は必ず正しいと言えるか?

解答

必ずしも正しいとは言えない。 取引を丸ごと記録し忘れた場合や、誤った金額を借方・貸方の両方に同じ額だけ記録した場合でも、借方合計と貸方合計は一致してしまう。試算表は左右の金額バランスの確認手段にすぎない。

Q3: この章の例で、貸借対照表の当期純利益8,000ドルは、どの財務諸表のどの数字と一致しているか?

解答

損益計算書の「当期純利益」8,000ドルと一致している。 当期に稼いだ利益は、貸借対照表の純資産の一部として積み上がる。


5. 発生主義という考え方

3章の取引⑥(掛け売上)で、「現金をまだ受け取っていなくても、商品を引き渡した時点で売上を計上する」という処理をした。これは思いつきではなく、会計に一貫して流れる「発生主義(Accrual basis of accounting)」という考え方に基づいている。

5-1. 発生主義 vs 現金主義

会計には、大きく分けて2つの記録方式がある。

記録方式いつ記録するか
発生主義会計(Accrual basis)現金の受け払いのタイミングにかかわらず、収益は稼いだ時点、費用は発生した時点で記録する
現金主義会計(Cash basis)実際に現金を受け取った・支払った時点でのみ記録する

同じ取引を、両方の方式で記録して比較してみる。仮に、コーヒースタンドが12月に100ドル分のコーヒー豆を後払いの約束で仕入れ、実際の支払いは翌年1月になったとする。

記録方式12月の費用として記録するか1月の費用として記録するか
発生主義会計記録する(仕入れた時点で費用が発生している)記録しない(すでに12月に記録済み)
現金主義会計記録しない(まだ現金を払っていない)記録する(実際に現金を払った時点)

現金主義では、実際に商品を仕入れた12月には何も記録されず、現金を払った1月にだけ費用が現れる。発生主義は、実際の事業活動のタイミングと記録のタイミングを一致させる考え方である。

⚠️ 現金主義は、一般に公開される財務諸表には使えない。 なぜか? 現金の動きだけを記録すると、すでに義務や便益が発生しているのに財務諸表に反映されない状態が生まれ、その時点での会社の本当の姿を映せなくなるため。USCPAが前提とする米国のGAAP(一般に公正妥当と認められた会計基準)は、発生主義を採用している。

5-2. 前払い・未払いという考え方の入口

発生主義の考え方を突き詰めると、「まだ現金は動いていないが、記録はしておくべきもの」が出てくる。代表的なのが、前払いと未払いである。

  • 前払い(Prepaid): 先に現金を払ったが、まだ受け取っていない状態。1年分の保険料を前払いした場合、契約時点で全額費用にはせず「前払費用」という資産としていったん記録し、時間の経過とともに少しずつ費用に振り替える。
  • 未払い(Accrued): すでに受け取った(提供した)が、まだ現金のやり取りが済んでいない状態。3章の取引⑧の給料で言えば、「すでに働いてもらったがまだ支払っていない給料」があれば未払費用として記録する。

前払い・未払いは、どちらも現金の動きと事業活動のタイミングのズレを埋めるための処理であり、発生主義という同じ考え方から生まれている。このように、費用や収益の計上を先送りする処理は「繰延(Deferral)」と呼ばれる。前払費用は繰延の代表例であり、FAR科目で本格的に扱われる。

5-3. 減価償却の直感 --- なぜ一括で費用にしないのか

3章の取引③で購入した20,000ドルの備品(エスプレッソマシンなど)を思い出してほしい。この20,000ドルを、購入した月にまるごと費用として計上するのは、発生主義の考え方に合わない。そのエスプレッソマシンは購入した月だけでなく、その後何年にもわたって売上を生み出し続けるからである。備品を使う期間全体に少しずつ費用として配分する考え方を、減価償却(Depreciation)と呼ぶ。

たとえば5年間使う予定なら、20,000ドルを5年間で均等に配分し、1年あたり4,000ドルずつ「減価償却費」として計上していく(ここでは話を単純にするため、5年後の処分価値=残存価額はゼロと仮定している。実際には取得原価から残存価額を差し引いた金額を耐用年数で配分する。配分方法にはいくつか種類があるが、詳細はFAR科目で扱う)。

⚠️ 備品を購入した月に、購入金額をそのまま全額費用にするのは誤り。 なぜか? 備品は長期間にわたって事業活動に貢献し続けるため、その期間全体に費用を配分するのが発生主義の考え方である。購入月に全額費用化すると、将来の期間の損益計算書を歪めてしまう。


✅ 確認クイズ

Q1: 発生主義会計と現金主義会計の違いを一言で説明すると?

解答

発生主義は現金の受け払いのタイミングにかかわらず収益・費用が発生した時点で記録し、現金主義は実際に現金を受け取った・支払った時点でのみ記録する。 GAAPは発生主義を採用しており、一般に公開される財務諸表に現金主義は使えない。

Q2: 「前払費用」とはどのような状態を指すか?

解答

先に現金を払ったが、まだサービスや商品を受け取っていない状態。 契約時点でまるごと費用にはせず、いったん資産として記録し、時間の経過とともに少しずつ費用に振り替えていく。

Q3: 20,000ドルの備品を購入した月に、20,000ドルを全額その月の費用にしないのはなぜか?

解答

備品は購入後、長期間にわたって事業活動に貢献し続けるため。 その貢献の期間全体に費用を配分するのが発生主義の考え方であり、この配分の仕組みを減価償却と呼ぶ。


6. 英語で会計を学ぶための最初の32語

USCPAのテキストは、日本語で説明されていても、勘定科目や会計用語そのものは英語で書かれていることが多い。ここまで登場した用語を中心に、最初に押さえておきたい32語をまとめておく。

日本語英語補足
借方Debit(DR)左側。資産・費用のホームポジション
貸方Credit(CR)右側。負債・純資産・収益のホームポジション
資産Asset会社が持っている財産
負債Liability会社が将来返す義務
純資産(資本)Equity資産から負債を引いた残り
収益Revenue会社が稼いだ金額
費用Expense稼ぐために使った金額
勘定科目Account取引を記録する際の項目の名前(現金、売上など)
仕訳Journal Entry取引を借方・貸方に記録したもの
T勘定T-account勘定科目ごとの借方・貸方の図
試算表Trial Balance全勘定の残高を集計し貸借一致を確認する表
貸借対照表Balance Sheet(B/S)ある時点の資産・負債・純資産を示す表
損益計算書Income Statement(I/S)一定期間の収益・費用・利益を示す表
キャッシュフロー計算書Statement of Cash Flows一定期間の現金の増減を示す表
利益剰余金Retained Earnings過去から積み上げてきた利益の蓄積
発生主義Accrual(basis)発生した時点で記録する考え方
現金主義Cash basis現金の受け払い時点で記録する考え方
繰延(前払い等)Deferral費用・収益の計上を先送りする処理
減価償却Depreciation取得原価を使用期間にわたり費用配分すること
売掛金Accounts Receivable(A/R)後で代金を受け取る権利
買掛金Accounts Payable(A/P)後で代金を支払う義務
現金Cash手元および銀行預金の現金
棚卸資産Inventory販売目的で保有する商品・製品
備品Equipment設備・什器など
有形固定資産PP&E(Property, Plant & Equipment)土地・建物・備品などを含む長期保有資産の総称
当期純利益Net Income収益から費用を全て差し引いた最終利益
売上総利益Gross Profit売上から売上原価を差し引いた利益
営業利益Operating Income本業の活動から生じた利益
前払費用Prepaid Expense先に支払ったがまだ発生していない費用
未払費用Accrued Expenseすでに発生しているがまだ未払いの費用
会計期間Fiscal Year財務諸表を作成する対象の1年間の区切り(会計期間は四半期・月次にも使う語だが、ここでは年次の区切りを指す)
米国会計基準GAAP一般に公正妥当と認められた会計基準

6-1. 読み方のコツ

コツは2つある。1つ目は、借方・貸方を略記で覚えることである。実務でもテキストでも、DebitはDR、CreditはCRと略して書かれることが多く、「Dr. Cash / Cr. Sales」のような表記に慣れておくと読むスピードが上がる(「DR」の代わりに「Dr.」とピリオド付きで略されることもあるが、意味は同じである)。

2つ目は、2章の「A = L + E」(Asset=Liability+Equity)をそのまま覚えることである。この3文字を見た瞬間に「資産=負債+純資産」が思い浮かぶようになると、英語のテキストを読む負担がかなり減る。


✅ 確認クイズ

Q1: Debit(DR)・Credit(CR)は、日本語の借方・貸方のうちそれぞれどちらに対応するか?

解答

Debit(DR)が借方(左)、Credit(CR)が貸方(右)に対応する。

Q2: 「A = L + E」の3文字は、それぞれ何の頭文字か?

解答

A = Asset(資産)、L = Liability(負債)、E = Equity(純資産)。 「資産=負債+純資産」という会計の基本等式を表している。


7. ここからUSCPAの世界へ

ここまでで、複式簿記の基本的な仕組みを一通り押さえた。最後に、この先USCPAで学ぶことになる科目の全体像と、この先の学習の進め方を紹介する。

7-1. USCPA試験の科目構成

USCPA試験は、Core(コア)と呼ばれる必修3科目と、Discipline(ディシプリン)と呼ばれる選択科目1科目を組み合わせた、合計4科目で構成されている。Coreはすべての受験者が受験し、Disciplineは3つの選択肢から1科目を選ぶ。

科目群科目学ぶことの概要
Core(必修)FAR財務諸表の作成方法。本講座で扱った仕訳・B/S・I/Sの延長線上で、収益認識・リース・連結などを深めていく
Core(必修)AUD財務諸表が正しく作られているかを検証する、監査の考え方と手続き
Core(必修)REG米国の税法とビジネス法。個人・法人の税金の計算や、契約・会社法の基本
Discipline(1科目選択)BAR上級の財務会計・管理会計・企業価値評価など、発展的な財務分析
Discipline(1科目選択)ISC情報システムとその内部統制。データやシステムのリスク管理
Discipline(1科目選択)TCP税務の実務対応と、発展的な税務プランニング

本講座で学んだ内容は、この中でもFARの出発点にあたる。仕訳・T勘定・試算表・B/S・I/Sという流れは、FARのどの章に進んでも共通して使う土台になる。

7-2. この先の学習の型

USCPAのテキストは、各章で共通して次の流れを繰り返す構成になっている。

ストーリー(導入) → インプット(本文の解説) → 確認クイズ → 演習問題 → 整理ノート

本講座もこの型に沿って、各セクションの終わりに確認クイズを置いている。この先のFAR科目以降も、同じ型で「読む→確かめる→解く→整理する」サイクルを繰り返していくことになる。

7-3. 次のステップ

この講座はここで終わりである。次は、FARの学習に進んでほしい。そこでは、会計基準がどこから来るのか、財務諸表の背後にある考え方(概念フレームワーク)とはどういうものかという、より制度的な内容を扱う。本講座で押さえた「仕訳・借方貸方・A = L + E」という土台があれば、無理なく読み進められるはずである。

  • テキストの全体構成を確認したい場合は、テキスト一覧から科目ごとの章立てを見ることができる。
  • 807時間・9ヶ月で全4科目に一発合格した実録メソッドは、USCPA勉強法大全にまとめている。

✅ 確認クイズ

Q1: USCPA試験の科目構成を一言で説明すると?

解答

Core(必修3科目: FAR・AUD・REG)と、Discipline(BAR・ISC・TCPから1科目選択)を組み合わせた、合計4科目。

Q2: 本講座で学んだ「仕訳・T勘定・試算表・B/S・I/S」という流れは、USCPAのどの科目の土台になるか?

解答

FAR(Financial Accounting and Reporting)の土台になる。 FARでは、この流れを前提に、収益認識・リース・連結など個別のテーマをさらに深めていく。


この講座はここまでです。お疲れさまでした。 次はUSCPA勉強法大全で、FARをはじめとする各科目の学習に進みましょう。

ここからUSCPA学習をはじめましょう

会計の基本がわかったら、いよいよUSCPA学習の本番です。807時間・9ヶ月で全4科目に一発合格した実録メソッドを、USCPA勉強法大全でまとめて手に入れられます。

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