KAIRO
KAIRO
7Chapter 7

内部統制 II

Internal Control: Part II

🦉 Episode 7: ルールはあるが、守られているか?

前回、クライアントの内部統制の「設計」を理解した。今日は、その統制が日々の業務で本当に機能しているかを検証する。

朝9時、カイロウと先輩はクライアントの経理部に到着した。今日の装備は、ノートパソコン、チェックリスト、そして大量の付箋。先輩が経理部の棚から分厚いファイルを3冊取り出してテーブルに積み上げた。過去3ヶ月分の請求書綴りだ。

💼「統制が設計されていることと、実際に運用されていることは別問題だ。今日は統制テスト(Tests of Controls)をやる」

🦉「設計はOKでも、運用がダメなこともあるんですか?」

💼「よくある。たとえば『課長が全件承認する』というルールがあっても、忙しくてハンコを押さずに処理していたら、統制は機能していないだろう? ルールブックがあるだけじゃダメなんだ。実際に現場で守られているかを確認する」

🦉「設計と運用、両方チェックするんですね」

💼「そうだ。設計の有効性と運用の有効性(Operating Effectiveness)。両方が揃って初めて、その統制に依拠できる」


カイロウは先輩と一緒に、請求書ファイルを1冊ずつ確認していった。1枚の請求書を取り出し、承認印の有無をチェックする。承認印があれば、日付が適切かも確認する。地道な作業だ。

50件、100件、150件……。カイロウの大きな目がファイルの上を行き来する。フクロウの目は暗闇でも見えるが、今はただ1つの印鑑の有無を追い続けている。

200件を超えたあたりで、カイロウの目が止まった。

🦉「先輩、ここ……承認印が押されていない請求書があります」

カイロウの声に、わずかに緊張が混じっていた。

💼「金額は?」

🦉「87万円です」

先輩は身を乗り出して請求書を確認した。

💼「少額ではないな。記録しておけ。日付、請求書番号、金額、そして『承認印なし』。全部メモだ」

🦉「はい!」

カイロウは急いでノートに書き込んだ。ペンを持つ翼の先が、少しだけ震えていた。

さらに確認を続けると、また1枚、また1枚と承認印のない請求書が見つかった。カイロウは見つけるたびに先輩に報告し、先輩は淡々と「記録しろ」と指示を出した。

最終的に、300件中12件で承認印が欠落していることが分かった。

💼「よく見つけた、カイロウ。集中力が途切れなかったのは立派だ」

カイロウは先輩に褒められて、思わず羽毛がふわっと膨らんだ。

💼「さて、これが運用上の逸脱(Deviation)だ。統制は設計されているが、運用が不十分。逸脱率4%。事前に設定した許容逸脱率(Tolerable Rate of Deviation)を超えている」

🦉「許容逸脱率って、あらかじめ『ここまでなら許容できる』というラインを決めておくんですか?」

💼「そうだ。統制テストを始める前に、『逸脱率がX%以下なら統制に依拠する』という基準を設定する。今回は3%に設定していたが、実際は4%。つまり基準を超えた」

🦉「つまり、この統制は『信頼できない』ということですか?」

💼「少なくとも、この統制に依拠して監査手続きを減らすことはできないと判断する」


🦉「じゃあ、統制が信頼できないときはどうするんですか?」

💼「ここで実証性テスト(Substantive Procedures)の出番だ。統制テストと実証性テストは補完関係にある」

先輩はホワイトボードに図を描いた。

💼「統制テストは『プロセスが正しく動いているか』を見る。実証性テストは『最終的な数字が正しいか』を直接確かめる。統制が信頼できるなら、実証性テストの範囲を絞れる。逆に統制が弱ければ、実証性テストを増やす必要がある」

🦉「シーソーみたいな関係ですね。片方が上がれば、もう片方は下がる」

💼「いい例えだ。これを監査リスクモデルの中で理解すると、こうなる。固有リスク統制リスクが高ければ、発見リスクを低く抑える必要がある。発見リスクを低くするには、より多くの実証性テストを実施する」

🦉「リスクのバランスで、テストの量が決まるんですね」

💼「ただし注意点がある。実証性テストはどんなに統制が強くても、完全にゼロにはできない。最低限の実証性テストは必ず実施する。これは監査基準の要求事項だ」

🦉「統制を信頼しつつも、自分の目でも確認する……ということですね」

💼「信頼するけど、検証する。Trust but Verify。監査人の基本姿勢だ」

カイロウはノートを閉じながら、今日の収穫を振り返った。300件の請求書を1枚1枚確認する作業は地味だったが、その中から12件の逸脱を発見できた。地味な作業にこそ、監査の真髄がある。


📖 今日学んだこと

統制テストは内部統制の「運用状況」を検証する手続き。逸脱率と許容逸脱率の比較で統制の信頼性を判断し、その結果が実証性テストの範囲を決める。これから学ぶインプットでは、統制テストの実施方法と実証性テストとの関係をより詳しく見ていこう。